中庭のある家とは?横浜の設計事務所が考える、都市で心地よく暮らす住まい

家づくりを考えている方から、「通りや隣家からの視線が気になる」「カーテンをつけずに暮らしたい」といったご相談をよく受けます。
都市部では、隣家との距離が近く、外部からの視線や採光、通風への配慮が欠かせません。
私たちは、そうした周辺環境を読み解き、住まい手に寄り添う住宅の在り方を検討しています。その中で一つの選択肢になるのが中庭です。
本記事では、敷地条件を踏まえながら、中庭のある住まいがもつ豊かさと、建築家がどのようにかたちにしているのかを、当設計事務所が手がけた事例を交えてご紹介します。
中庭の役割と都市部の住まいとの関係

中庭とは、建物や壁で囲まれた屋外空間を指します。周辺環境と距離を保ちつつ、光や風を住まいへと導くのはもちろん、家族のつながりを育む空間を生み出します。
東京や横浜のような住宅密集地では、隣家との距離が1〜2m程度の敷地も多く見られます。また、傾斜地や狭小地など、敷地条件に制約があるケースも少なくありません。
道路や隣地側に大きな開口部を設けてしまうと、十分な採光や通風、プライバシーの確保が難しく、快適性を損なう要因になります。
そのような場合には、無理に外側(道路や隣地)に開くのではなく、内側(中庭)へと開くことで、住環境が整いやすくなります。
隣家の窓の位置や視線の抜け方を踏まえて、庭と開口部の位置関係を計画し、都市部でも落ち着ける住まいをかたちにしていきます。
中庭がもたらす豊かさと設計時に考慮すべき点

中庭は都市の中で安心して外とつながり、心穏やかに過ごせる家族の居場所です。暮らしを豊かにする存在だからこそ、それを支える設計が欠かせません。
中庭がもたらす豊かさ
①プライバシーと開放感を両立する
中庭の存在によって外部からの視線を遮りながらも、空へと開けた開放的な空間が広がります。建物の形状や窓の位置を綿密に検討し、視線をコントロールすることで、都市部でもカーテンに頼らない暮らしが実現します。
②光と風が住環境を心地よく整える
住宅の中心に余白があることで、周囲の建物からの影響を受けにくい位置から、安定して光や風を導けます。住宅密集地でも住まいの隅々まで自然光や風が行き渡り、心地よい住環境が生まれます。
③自然の移ろいを暮らしに伝える
中庭を介して空や光、植物の変化が身近に感じられます。季節や天候、時間によって移り変わる外の表情を、室内で眺められるのは贅沢そのものです。
窓の先に植栽があれば、緑が暮らしの一部となり、日常にささやかな彩りを添えます。
④暮らしの中心となり、家族をつなぐ場に
お茶を飲んだり、寝転がって雲の流れを眺めたりと、家での過ごし方の幅が広がります。中庭はもう一つのリビングのように、家族が自然と集まる場所となります。
また、家のどこにいてもお互いの存在がそっと伝わるのは、中庭のある住まいならではです。
設計時に考慮すべき点
①建築費用への影響
中庭を囲む構成は、壁と窓の面積が増えるほか、庭部分の排水設備や防水処理も必要になります。その影響により、建築費が上がる可能性があります。
ただし、建物の配置や外構計画の工夫によって、コストを抑えられる場合もあります。
②動線計画によって暮らしの質が変わる
中庭を中心としたプランでは、各部屋をつなぐ動線が長くなり、移動を負担に感じるケースもあります。動線を短くするよりも、窓先の景色を丁寧につくり込むことで、わずかな移動時間でさえも、豊かなひとときへと変わります。
③温熱環境を意識した設計が求められる
窓は住宅の中でも、外気の暑さや寒さの影響を受けやすい部分です。中庭のある住まいでは窓面積が大きくなる傾向があり、断熱性能を含めた計画が必要不可欠です。開口部の位置や大きさに加え、高性能サッシやトリプルガラスなどを検討しながら、快適な温熱環境を整えます。
④植栽計画と虫への配慮
樹木によっては虫がつきやすく、植栽を敬遠されるケースもあります。中庭は眺めるだけでなく、過ごす場所だからこそ、維持管理のしやすさを含めた植栽計画が重要です。
虫がつきにくい、落葉の少ない樹種を選定すれば、負担に感じることなく、四季の変化や緑を身近に感じられる環境が叶います。
建築家とつくる、日常に溶け込む住まい

都市部の住宅密集地において、中庭は自然を身近に感じられる暮らしを可能にします。
しかし、ただ庭を配置すればよいというものではありません。敷地条件や周辺環境、暮らし方、ライフステージまで見据えた設計を行わなければ、やがて使われなくなる空間になる可能性もあります。
庭の存在意義を最大限に引き出すためには、それらを一つひとつ読み解いたうえで、住まい全体を計画する設計力が求められます。
住まい手に寄り添い、敷地の特性を的確に捉えられる建築家とともに検討を重ねることで、中庭は日常に溶け込む空間になります。
【事例紹介】二ツ橋町の家

横浜の住宅街に建つ、私たちの自宅兼設計事務所の事例をご紹介します。
前面が道路に接するほかは隣家に囲まれており、外部からの視線への配慮が欠かせない敷地でした。
一方、「仕事の合間に庭で休憩したい」「家族と庭でくつろぎたい」という思いもあり、庭を中心に据えたコの字型のプランにしました。
中庭のある住まいは外に対して閉鎖的になりやすいですが、この家では気分や状況に応じて、周囲との関係性が変えられるように設計しました。リビング、仕事場、道路側の窓の位置を揃え、建具とブラインドで街との距離感を調整しています。


また、いつでも自然を身近に感じられるよう、家の前や周囲にも庭を設けました。どの窓からも光や空、緑の気配が伝わり、住まいの中にいながら外とのつながりを感じられます。
住み始めて3年が経ち、現在は室内から庭の様子を眺める時間が増えました。それでも、仕事の合間に外に出て一息ついたり、草花の手入れをしたりと、中庭は日々の暮らしに溶け込んでいます。何より、陽の移ろいや四季の変化を感じて過ごすひとときは、贅沢だと実感しています。


外と住まい、家族をつなぐ中庭
光や風、四季の変化を取り込み、暮らしに静かな豊かさをもたらす中庭。庭とどのように暮らしていきたいかを思い描いて計画すると、その家族らしい空間が生まれます。
中庭のある住まいづくりは、周辺環境や暮らし方、住まい手の想いに寄り添い、「建物」と「庭」の在り方を丁寧に読み解く姿勢が求められます。
私たちは、住まいが街や暮らしに自然と根付き、愛着の湧く存在となるよう、これからも設計を続けていきます。